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冷静と失禁のあいだ

アンハッピーセットのオマケは幸せな夢を孕むか

重い女は容赦なく叩き付けられる

ベランダに出ると、ぶわっと冷たい風が吹いた。強い風だ。あまりの寒さに身震いするほどの冷たさだった。

ベランダの地面に、四センチほどの虫がいて、普段なら虫が大嫌いなわたしはそんなことしないであろうに、なぜかサンダルの爪先でその虫をつついてみた。
虫は羽音をたてるわけでもなく、つまさきに踊らされるように地面に擦れるようにしてカサカサと音をたてた。

虫はとうに死んでいたのだ。
腐るわけでもなく、うじがわくわけでもなく、乾燥して干からびていた。一体いつからそこのいたのか想像もつかなかった。
午後の日差し、夕焼けが虫の死体の背にある甲羅に反射してきらきらとしていた。死んでいるのに、わたしはちょっとそれを羨ましくおもった。

ベランダから、いやベランダだけでなく高いところから地面を見つめると、自然と頭が反応するようで、うん、この高さなら死ねるとか、これだと障害残りそうだなあとか反射的に想像していた。わたしの家のベランダは後者であり、骨折程度で収まりそうな高さだった。

アスファルトに雨が染み込まれていく様子を見ているとなんだか泣けてくる。優しさを感じてしまう。

色んな人から重い女だと形容されて、半ば諦めを感じ始めていたが慣れることはなく一生このままなのだろうかという漠然とした不安がある。
その不安がわたしをさらに重い女に仕立てあげているのに。
わたしはそうこうしているうちに、人の手の中にはあまりにも重すぎる人間になってしまっていた。
アスファルトを見るたびに、泣けてくる。
わたしを受け止めてくれるのはこのかたい地面のアスファルトくらいしかないのでは、と。


風が冷たい。
春になったらきっと暖かくなる。
五月の風がわたしの背中を押すのだろうか。