冷静と失禁のあいだ

死ぬまで踊り続けるマグロさんの話

あなたもわたしも残れるか

 

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ビルエヴァンスの、ワルツフォーデビーあるでしょ、

あの曲では終始、食器の音が後ろの方で鳴っているのが、聞いたらすぐにわかるはずなんだけど、その食器の擦れる音以上に目立っているのが男の声。

それも、笑い声なのにビックリだ。

いや、あのビルエヴァンスのピアノがなっている傍でメシを食えるなんて、この世で考えられるあらゆる種類の贅沢の中でもかなり最上位に入るくらいの贅沢だと思うんだけど、さらにそのピアノがなっている傍であんな豪快に笑えるなんて、神経を疑う。

でも、声を聞く度に、中年の小太りで少し頭のてっぺんが剥げてそうだとか、それなりに金があって窮屈そうにネクタイを締めて、襟あたりにスープが少しはねてそうだとか、恐らくその妻、はパーティーの空気に慣れた、男性の注目を浴びるような歩き方をして、ハンサムな男性を見つけるとキュッと締まった腰に小尻を突き出すようにして話しかける。そして、ディオールの香水を身にまとう栗色の髪の毛を揺らして赤いドレスを身にまとい、細身の体を上品と下品の中庸くらいのバランスで揺らして夜な夜なハンサムな青年を誘っていそうだ、とか、色々想像をめぐらせてしまう。

とにかく、そういうくだらないこを、しかも、ビルエヴァンスのピアノとは全く関係のない事柄についてであるのに、考え始めると大抵曲が終わっている。

彼のピアノは非常に上品だといつも思う。

あの笑い声や食器の音なんか聞こえていないかのように、淡々と、軽快なステップを刻み、高尚な猫のように凛としているのだ。シャンデリアや照明がキラキラと光を反射し合っている中でもお構いなしな振る舞いで。

たった一曲で、それも、ピアノだけではなくその背景で流れている音で状況が伝わってくる珍しい曲で、お気に入りのひとつだ。

でもたぶん、こんなことを考えているのは私だけではないと思う。たしか村上春樹のエッセイかなんかでも触れられていた気がする。

羨ましいことに、彼はこのたった一曲のおかげで誰かの記憶に残り続けることが出来る。ビルエヴァンスのピアノを注意深く聞く総ての人たちの心の中に良くも悪くも存在することが出来る。

私的にはこの点が非常に羨ましんだよね、この曲が残り続ける限り、彼らは覚えて居られることが出来る、想像をめぐらされる。

この曲の中に残れた人たちと、太っているであろう中年男性に乾杯。