読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

大多数のセールスマンがそうであるかのように

小説

 かんべんしてよ、とばかりに女は頭を抱えた。部屋にはセールスマンがいた。

 セールスマンはコーヒーを一口、口に含んでから、キル・フェボンの菓子の袋を開けた。袋が破られ、甘い柑橘系の芳香が彼の周りに漂った。

 何で私はセールスマンなんかを部屋に招いているのだろうか。なぜ、家に上げてしまったのだろうか。

 セールスマンは何度も同じ言葉を繰り返す。

 しかし、セールスマンは嘘をつかない。

 だから、セールスマンは嘘をつかない。

 

 「いやァ、お宅の娘さんは絶対売れる子ですって!私、ピンときたものですわァ、この子に!」

 女は見慣れた我が子に目をやった。そこには、5.6歳にしては、胸や腹周りがやたらと発育の良い普遍的な娘がいるだけだった。ほかには何も無かった。二重でもない、平凡な瞳に、控えめな鼻立に、主張を抑えた口。平凡、読んで字の如くであった。

 本当になんでこんなことになっているのだろうか。いつのまに、部屋に招いてしまったセールスマン。巧妙な手口で家に上がってくる。きっと、セールスマンとはいつの間に部屋に上がっているものなのだろう。人々をそうさせてしまうのだろう。だから彼らは、セールスマンなのだ。

 

 お宅の娘さんは絶対によく売れます、のフレーズをやたらと繰り返すだけ繰り返してセールスマンは帰っていった。

 結局、セールスマンは3時間も女の家にいた。

 女はセールスマンのいなくなった、ひっそりと静まり返った部屋で一人になった。

 夕飯の支度をしようと部屋の電気をつけた。冷蔵庫の中を漁る。食品はたくさんあった。

 娘に夕飯のリクエストを聞こう、女は振り返った。5秒ほど、視界に娘の姿を探したが、娘はいなかった。

 

 娘が家に帰ってきたのは4週間後のことだった。

 ピンクの生地に、小さなリボンが縦に三つ並んだワンピース。女の視界から消えた日と同じ服を着ていた。

 さらに娘の腹には大きな傷があった。サメのようなものが噛み付いた痕のようにも思えるそれは、手術の痕だった。

 女が娘を急いで病院へ連れて行くと、内臓の一部がごっそり切り取られていることがわかった。

 内臓はきれいに切り取られていた。ほかの部分は何も無かったかのように傷がついていなかった。

 あまりにも丁寧で、その変化に医者も一瞬気付かなかった。

 それは、あの時のセールスマンのように、ふっ、と消えては違和感無く自然に溶け込んでいた。

 お宅の娘さんはよく売れますから、絶対、売れますから、女はセールスマンの言葉を思い出す。

 女はため息をついた。 

 おそらく、あのセールスマンは嘘はついていないのだろう。

 きっと娘の一部は、よく売れたのだ。