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冷静と失禁のあいだ

アンハッピーセットのオマケは幸せな夢を孕むか

パニック発作

自殺することばかり考えて、自分の事は一切として考えることができなくて、耳に入る言葉、ぜんぶが敵の囁き声に聞こえて、あたしは、いてもたってもいられなくなって、耳を両手でふさいだ。
耳を塞ぐと、強制的に作られた静寂の中で、どこか遠くの世界の会話が聞こえた。
もちろん、いま、あたしがいる世界とは別の場所のことで、ぼやけて聞こえる人の声であろう音は、理解の出来ない言語に成り代わっていた。
なにか音が聞こえる、という状態になると、途端に一人になりたくなって、トイレへ駆け込んだ。
勢いよくドアを閉めて、狭い個室を世界の全てであると無理矢理認識させて、再び目を閉じる。
トイレの隅っこの方にあるタイルを、じっと見つめていた。
こびりついた汚れや、年季の入ったキズが、なぜかとても私を安心させて、トイレの壁に手をついて、ゆっくりとその場で体育座りの姿勢をとった。
近付いたり、遠のいたりする幻聴に耳を傾けないように、必死に壁を見つめていた。
壁、壁、汚れ、汚れ、キズ、白、と、個室の特徴を一つ一つ挙げていった。
十分に特徴を挙げきると、あたしはトイレから出て、トイレの壁より白い自分の顔を鏡で確認し、ポーチから取り出したレキソタンを流し込む。
すると、今日が今日であることがやっとわかって、自分が今どこにいるのか、足元から把握し始めた。
世界と自分との関係を理解すると、涙が止まらなくなってしまった。
本の文章を、指でゆっくりとなぞるようにして、世界を読み取って、目を閉じた。