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冷静と失禁のあいだ

アンハッピーセットのオマケは幸せな夢を孕むか

おじいちゃんについて覚えてること

私が高校にあがってすぐ位に祖父が亡くなってから、祖母は頻繁にわたしに話しかけてくるようになり、私は少しその事にウンザリしていた。
だからわたしは、祖母の家に行くと、適当に挨拶を済ましてすぐに祖父の書斎にこもるようにしている。ホコリかぶって黄ばんだページは、少し折り目をつけただけで簡単に剥がれ落ちてしまう。慎重にページをめくりながら、障子の向こう側で談笑する母と父と祖母の会話を意識していた。すると、祖母がスイッチが入ったかのように祖父の事を悪く言い始めたので、わたしは素早く祖父の事を思い出した。言うほど悪い人だったのか、と、記憶を辿ってみたがそうとは思えない。わたしの家庭は一人っ子だった。にも関わらず、結構長い間ゲーム禁止家庭だったので外で遊ぶか部屋で一人遊びするか妄想にふけるか、という選択肢を余儀なく課されていた。その三つの中で、あれやこれやと悩んでいると祖父がちょっとデカいショッピングモールに連れ出してくれた。ボロボロの黒い自転車の後ろに乗っけてもらって、お菓子やおもちゃを買ってもらったり、ゲームコーナーで好きなだけガチャポン回したり、かなりの金額を費やしていたけれど、祖父は何も言わずに無表情でわたしに両替した小銭を渡してくれた。
わたしが一通り満足したあとは、一緒に俳句を考えながら祖母のもとへ帰ったりしていた。 ひどく無口な人だったが、たまにニコニコ嬉しそうにしてる姿は今でも良く覚えていて、それ以外の時間はずっと机に向かって俳句を考えているか原稿を書いているか本を読んでいるかしかしていなかった気がするけど...。祖母は祖父の、どんなところが嫌いだったのか、とか具体的には挙げてこない。ひたすら、辛いとだけ訴えてくる。私は、祖母の話を聞きながら、大体祖父の遺品の本のページをなぞっている。ページには鉛筆で、部分的にラインが引かれている。あの人のせいでわたしは本当に大変だったんだから...と、祖母の声がハッキリと聞こえる。その度に、なんでかな、祖父のことが知りたくなってしまう。
「おばーちゃん〜寺山修司とか読みたいんだけとおじーちゃん、持ってたりしなかったの?」と聞くと、祖母はハッとして「あの人、寺山修司とすごく仲悪かったから、寺山修司の本は無いのよ」と教えてくれた。「よく覚えてるね」と、皮肉めいて指摘すると「覚えてるわよあたりまえじゃない」と言ってそれからまた、祖父への曖昧な不満を話始めた。祖母はきっと、本当はさみしいのだろう、とわたしは思った。