冷静と失禁のあいだ

死ぬまで踊り続けるマグロさんの話

皺と溝

精神病院に入院してたときに、お父さんに「あの病院きついから出たい」って相談したら「君は異常じゃないよ」って言ってくれたことをわたしは信じている。

けど、いつもわたしはお父さんの顔をまともに見れてなくて、最近、久々にちゃんと見たら昔よりずっと老けて年を取ってることに気づいて、シワの数を数えようとしてやめた。

波の音がしたから海を見ることにした。海はとてもきれいだった。嘘。鉛のような灰色の艶が蠢いているだけだった。

風がやたら強くて髪の毛がボサボサになるのが怖いから、わたしは下を向いて髪形が崩れないように必死になっていた。

「あんまり良い景色とは言えないねぇ」

「でも一応海じゃないの」

「こんなもの海じゃないよ」

「でかい水溜まりだ」

「そうだから見なくて良い」


お父さんは目もやらないですたすたと歩いていく。幾つものむなしい景色が役目を果たさずに沈黙していた。
然り、そのような関係であった。