冷静と失禁のあいだ

死ぬまで踊り続けるマグロさんの話

バタートーストの焦げた匂いみたいな話

あんなにも料理が嫌いだったわたしが、母親の能力を少しずつ吸い取るようにして、食材を買い、料理をするようになった。その日のために、簡単なものから、徐々にレパートリーを増やしていった。

わたしが作ったきんぴらごぼうを、「汚ないから」と、ひどく潔癖な父が、こっそりと捨てた夜のことは今でも鮮明に覚えている。

昨日のこと。
「一口くれよ」と、父は言って、焼きたてのバタートーストを自ら千切って、私の皿から、自分の皿に持っていったんだ。

それがどういう意味か、ほんの気紛れなのか、わたしにはまだよくわからないけれど。
父がわたしの味付けに慣れようとしているのは、少し寂しくて。
父がわたしの姿に、母の面影を見出だしてくれたのならば。
もしかすると、が近いのかもしれない何て思ってしまう瞬間がある。

何事も見た目から、と世間は言うが、父の明日の弁当のためだけに深夜まで料理本と格闘する母親の、母としての姿勢を見よう見まねで真似できるものだとは、料理のそれもしかり、わたしには到底思えない。