冷静と失禁のあいだ

死ぬまで踊り続けるマグロさんの話

芽生えるじゃなくて、次第にじゃなくて、うまれるやつ

初めて痴漢にあった時、わたしは小学生で、電車の中にいた。電車の中にいたわたしは、その行為の意味が全く分からなかった。

 

今でもまだ、その時の事を、かなりよく覚えている。具合が悪くなるとその時の映像が頭で再生されるからだ。

男が乗っていた車両は二列目で、わたしが電車に乗り込むと、なぜか、ニンマリと笑みを浮かべ始めた。中年の小太りの男で、灰色のパーカーを着ていた。脂ぎった顔はテカテカとしていて、そういった印象が恐怖に拍車をかけた。痴漢を経験する以前のわたしは、大人に明らかな悪意を向けられたことがなかった。

けれど、男が浮かべた笑みの不気味さに、何か悪意があることは不思議と読み取る事ができて、わたしはすぐに、次の停車駅で降りようと決めた。

その行為は、今は正直、とても悲しいけど理解できるし、よくわかっている。セックスやセックスへの欲望が存在しているから、痴漢の存在の意味が理解できる。だけど、小学生のわたしはあまりに正しかったので、痴漢の行為の意味がよく理解できなかった。今のわたしは、大人だ。大人になるまでの間、段々と歳を重ねる内に、正しくなくなっていってから物事の存在意義が明確に輪郭を描き、物事同士が拒絶し合い、次第に理解を形成できるようになった。

 

小学生のわたし、何もわからなかったわたしは、なぜ、わたしの背後で、わたしの体を触る男性はここに存在しているのだろうと疑問に思った。

不思議で仕方がなかった。

なぜ、この男の人は、お母さんの股間から出てきたのに、わたしのそこに欲望を感じるのだろう。不思議でしょうがなかった。

この人は、それを知っているのに、その経験を改めて、他者、それも子供のわたしで再び体験をしたいと望んでいる、意味が分からなかった。

この男の人も、昔は赤ちゃんだったし、わたしのような小学生時代も経験してるからだ。つまり、この男の人は、お母さんの股間から出てきて、股間を経験していて、尚且つ子供の体型も経験しているはずだ。なのに、子供のわたしのそこに拘る。

この男の人はどこから生まれてきたのか、分からなくなっていた。悪い人だという事は良くわかる。それは、現に、わたしに直接恐怖を経験させているからだ。

頭の中がごちゃごちゃになった。

 

あの人は、どこから出てきたのだろうか。

一体どこで、悪い人になってしまうような経験をしたのだろう。あの男の人にも、確かに無垢な時代があったはずだ。自ら選択して痴漢になるような出来事ってどんなきっかけなのだろう。何を、どういうタイミングで吸収してしまったのだろう。一体どんな経験だったのだろう。

 

もしかすると、お母さんのお腹の中がよっぽど居心地が悪かったのかもしれない。それでも女性に拘ってしまう理由とは。いや、でも、ひょっとしたら生まれてなかったのかもしれない。やれやれ本当に、どこから現れて、どこに消えてゆくのだろうか。ああいう人たちは。