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冷静と失禁のあいだ

死ぬまで踊り続けるマグロさんの話

クラゲに誘われて

先日、久々に水族館に行った。水槽にいる生き物は人間じゃないから、すごく心が穏やかになった。

水族館は、照明も穏やかだし、何よりも、生き物に表情は無いから不安になるポイントがそれらの生き物とコミュニケーションを取れないくらいしかない。あとは基本的に規則的に動いている気がする。クラゲは特にいい。目と口が無いから表情という概念が無いし、動きだってフワフワとしているだけだ。それでもクラゲにとっては必死なのかもしれないけど、何にしろ我々にその必死さやしんどさは一切伝わらないので、彼らがただ水中を漂っているくらいしか捉えられない。

発そうとしている信号を理解できてしまったら別だけど、今のところ理解できないので心が乱されなくて済んでいる。水族館にいて怖いと思うのは、生物を見て、かわいい、きれい、すてきと言えて、それ以外が一切言えない人間の様子に対してくらいかもしれない。ある人は水槽を見ながら、一方的にその生物に関する説明をしているが、ある人はじっと水槽を見つめて、30分くらいそのままでいる。水族館をまわっているカップルは、かわいい、こわい、気持ち悪い、という話しかしない。

水族館にいるカップルの男と女の、退屈そうにしているどちらかは、繋いでいる手の指先をこまめに動かす。男の方が水槽に魅入っていると、女が不満げに男の腕に絡みついたり、「つぎぃ~はやくぅ」と急かしながら胸を押し付けている様子が見ることができるし、男が「あ~水槽とかどうでもいいから早くセックスしてえ」という事を考えているのだろうな、などといった予測もつく。客はカオスだ。

だから水族館にいると、水槽の中の生物に興味があるのか、水槽を見ている生物に興味があるのか、境目がわからなくなってくる。ふわふわしているだけで、女に可愛い可愛いって言われやすいクラゲは本当は水槽の中で、「こいつらバカみてえなコミュニケーションしてんなあ~俺たちはこうやってひらひらさせいれば褒められるのによ~まじ下らねえわ~」って思っているのかもしれない。時折ピカピカと光るクラゲのアレにそんな信号が含まれてないといいな。