「今年も辛そうですか....?」
唐突に何かと思ったら、医者は私のカルテと思われる薄い紙を見ていた。
目線の先には持病やアレルギー症状など様々な病名が羅列していた。
「え、あ、はい。まあ、辛いです」
医者はにこっと笑って聴診器を当てながら会話を続けてきた。
「昨年と比べてどうですかね」
「あんまり変わりませんね。ずっと辛いです」
「ずっと!?そりゃ大変だあ気の毒にい」
当たり前である。去年もずっと病気が治らず、テンションの上がり下がりにひどく苦しんでいた。きっとこの先もそうなのであろう。気が重かった。そして、精神科医でもない医者についぽろっと本音が出てしまった。
「去年もずっと死にたかったです」
「そんなに!?」
医者は驚いたように、しかし、シリアスな様子は一切感じさせずに微笑んだ。私はその反応に驚いて言葉を一瞬つまらせてしまった。
「えっ。はい、ずっと辛かったので」
「そっかあ大変だねえ」
「毎日生き地獄ですよ、ほんと」
思わず愚痴をこぼす。私の態度に医者が苦笑いしていた。
「僕もね、辛かったよ」
医者は再びにっこりと微笑みを浮かべた。私の通っている精神科ではこんな返し方をしないもので、こういう医者もいるんだなあと不思議な気持ちになった。中学校の教師には同じ返し方をされたことがあったが。
「そうなんですか...」
「去年よりマシって人のが多いみたいだけどねえ」
いったいどういう事だ。神経症患者はそんなに多いものなのか。
多くの神経症患者にとって去年は辛い年だったのだろうか。,まあ、楽な一年という概念は無いのだろうが。
「えっそうなんですか.....!?」
「みんな辛いって言ってたよ」
「そうなんですか.....」
やっぱりわたしだけじゃなかったんだ、と思えることができ、少しだけ心のどこかで安心できた。
「うん、でもやっぱり辛いよね、花粉」
「えっ」
「えっ」
「アッ.....そうッスね...花粉辛いッス~~~~~~!!!!ブエックショ~イ!」
超笑顔だった。
最低のくしゃみだった。
鼻から出る液体が、恥ずかしさでなぜか目からあふれ出た。
ぜんぶ、花粉のせいだ。
私は鼻をかむそぶりを見せつつ恥ずかしさで赤くなる顔をティッシュで覆って退出した。
大学の窓から桜の花が風で何度も揺れてはひらひらと落ちていった。
こうして、比較的平和な春がやってきた。