相部屋の人が恋しくなるときがある。
私たちは、朝起きたら「おはよう」と声をかけ、ご飯を食べるときは「いただきます」を言い、同じご飯を口にして、外に出るときは「いってらっしゃい」、かえってきたら「お帰りなさい」を言い合い、1日の終わりは「おやすみなさい」で終え、川の字になって寝た。
こういった小さな挨拶や気遣いで、少しずつ家族のような関係を築くことができて、とても嬉しかった。ある相部屋の人が「私、この部屋の人のこと、一生忘れないと思う」と言っていたが、私もそう思った。
幼少期の虐待の話で打ち解け合うような異質な空間。
栄養の行き届いていない細長い足により不安を覚えさせる火傷の痕。
正気を保つためについた、冗談と笑い。「コッペパンもう二度と食べたくないよね」、「認知症の人の介護を経験するとは思わなかったね」、「あったかいご飯って、尊いね」、「お湯で薄められたお茶って身体に沁みるよね」等々、沢山の共感を共有した仲。認知症の人に殺されるのではないかと恐怖した夜。
私が求めている、家族のような距離感に近い何かに触れたような気がして、切なくなると同時に、今の私は、家族を持つという夢から大きく離れてしまったことに悲しくなる。きっと家族とは、こんな感じのつながり方をするのだろう。
私もいつか、そういう関係を持てるだろうか。
相部屋の人々と私の理想の関係。嬉しかったり、切なくなったり、不安になる。
もう二度と会えない他人なのに、少しだけ家族のような関係になれた相部屋の人々のこと。