ある日、男の子が家に帰ると、自分の部屋から犬の鳴き声がする事に気が付きました。部屋のドアを開けると、小さな犬が元気そうにワンワンと吠えて、男の子に近寄ってきました。
「お母さん、この犬は?」と、男の子がお母さんに尋ねると、お母さんは「犬よ」と答えました。
「ふうん、つまりペット?この間本で読んだんだ、この流れだと、犬はペット!良く付けられる名前はポチだからポチにしよう!」
「ポチ、ね!わかったわ。お母さんも、この子をポチと呼びます。でも、ペットと呼んではいけないわ。コンパニオンアニマルとして扱いなさい」
「うん!よろしくね、ポチ!」
男の子は、手始めにポチの頭を撫でてみました。ポチは自分の名前がポチであることの意味は勿論理解できなかったかもしれませんが、上下関係は理解したようで、尻尾を上下にふりました。
それから、男の子はポチとよく一緒に出掛けるようになりました。
しかし、散歩中、男の子と同じクラスの女友達が、「こんないいお天気に、犬を連れて、買い物だなんて君は優しいのね」と、男の子の行動を褒めたつもりで話しかけてきました。男の子は「連れて、だなんて!差があるみたいじゃないか、この子と一緒に僕はここに来ているんだ!」と、怒って家に帰ってしまいました。
その様子を見て、女の子はひどく不安になりました。なぜかというと、女の子に起きた、つい最近の出来事が原因でした。
女の子は、ポチと同じような犬が車にひかれて死んでしまった現場を偶然見かけて、慌てて血だらけの犬に近づこうとしたら、なぜでしょう、近所に住んでいたおばさんにとめられたのです。おばさんは、「服が汚れちゃうわよ。あとは適当なが掃除するから」とだけ言って、女の子が死体に近づかないように手を握ってくれました。
あの轢かれてしまった犬は、犬と呼ばれ、名前がなく、コンパニオンアニマルになれなかったから、掃除されてしまったのか。女の子は悲しくなりました。もとは同じ犬、同じ形、同じような声をあげるのに、どうしてあの男の子の犬ばかり可愛がられるのでしょう。上の存在が出来るから、下の存在が出来てしまうのは、まるで社会。上なんて、無ければいいのに。下があれば生きていけるのに。と、地面をじっと見つめながら、考え込んでしまいました。
しかし、次の日に男の子が公園で泣いているのを見かけました。
「どうしたの?」
「ポチが死んじゃった。友達だったのに。ポチが死んじゃってから、毎日、悲しくて眠れなくなっちゃった。」
「死んじゃうのは悲しいね。掃除した?」
「掃除だなんて、ひどいよ。僕の友達だからきちんと埋葬してあげたよ。お墓だって作ったんだ」
女の子は、男の子の家の庭にある墓に女の子を案内しました。
「たぶん君ならわかると思うわ」
そう言って女の子は、男の子のお母さんに何かを告げました。お母さんは女の子の告げたことに、頷くと、ニッコリとほほ笑みました。
後日、お母さんは新しい犬を連れてきて、ポチと名付けて、男の子と一緒に寝かせました。
新しいポチは、死んでしまったポチのようにフワフワと、柔らかい毛並みを持ていました。ポチが男の子の涙をぺろりとなめとると、男の子は不思議と、悲しくなくなりました。
「そっか、ポチ。今日から君がポチになるのか。僕は所詮、名称であるポチ以外の部分になんて興味がなかったんだ、おやすみなさい。」
その晩、やっと男の子はぐっすりと寝ることが出来ました。