冷静と失禁のあいだ

夢日記と映画や本、美術展、エロゲの感想など。

海に連れていかれたぬいぐるみの話

私は物心ついた時からぬいぐるみが大好きだった。旅行に行くたびに、どのぬいぐるみを旅行に連れていくか頭を悩ませたほど、ぬいぐるみと会話し、世話を焼いていた。

ハワイに旅行に行った時のことだ。私は、ホテルの窓から誤ってぬいぐるみを落としてしまって、うっかり風がその子を目の前の海へと運び、波が海へと連れていってしまったことがあった。その子を追いかけるには窓から飛び降りないといけないが、まあ無理なので、窓からその子が波に攫われ、見えなくなるまで静かにずっと見守っていた。完全に海から見えなくなってしまったのを確認すると、とても悲しくて落ち込んだのを今でも覚えている。暫くの間、あまりにも悲しすぎたので、同じような形のぬいぐるみを探し求めて色々な水族館に行った。あの子は、白いイルカのぬいぐるみで、口の中がピンクの布で作られている。目は黒で、と特徴を挙げていくと、その辺の土産屋にいけば見つかりそうだった。思った通り、似たような子は見つかったが、海に行ってしまったその子と同じ位、大事にすることは出来ず、喪失感が紛れることはなかった。

あの子がもしまだ私の傍にいたら、私は変わらずにずっと大事に出来たのだろうか。

いや、ずっと大事に出来る自信は無い。

何十年も傍にいたら、見た目はボロボロになるし、いくら直してもキリがないし、新しい魅力的なぬいぐるみは毎日雑貨屋に並べられているはずだから……というのは、大人になってから気付けたことだ。今では、あの子とどこで出会って、どんな話をして、ハワイの他にどこに旅行をしたか正確に思い出せない。ただ、海に攫われて行ってしまったことだけ覚えている。大事に出来なくなってしまう前に、海に連れていかれた方が良かったのかもしれない。事実、沢山のぬいぐるみたちが埃まみれの押し入れの中で眠っているから。

あの子が海の中で腐っていくところを見なくて良かった、時間の経過と共にボロボロになっていくのを見なくて良かった、大事に出来なくなる私を知らずに済んで良かった、あの子が海に攫われて、良かった。海の中でのことは、もう私には関係のない話だ。無事、竜宮城に辿り着けますように。